極甘上司に愛されてます
それから十数分もすると、予想通りザァァ、と雨が降りだした。
ここはいちおうお店の軒下だから体は濡れないけれど、雨足は強いしやっぱり中で待たせてもらおうかな……と、待ち合わせ場所の変更を申し出るため、バッグからスマホを出そうとした時。
ここを通りかかるたくさんの足音に混じって、明らかに私の方に向かってくる革靴の音に気がついて、私の心臓が大きく波打った。
それから地面にできた小さな水たまりを踏みつけながら近づいてくる男のひとの足元が視界に入ってきて、私は思わず目を閉じた。
どうしよう……何て言おう。
自分から恋人に別れを告げるのなんて初めてだ。
でも、このままじゃ私がダメになるから……
周りにも、たくさん迷惑を掛けてしまうから……
足音が自分の目の前でぴたっと止んだのを確認すると、緊張で汗が滲んでくる手をぎゅっと握りしめ、私は口を開いた。
「急に呼び出してごめんなさい。あの、大事な話っていうのは……」
彼の声を聞く前に、全部言いきってしまおう。
未練なんて、感じる前に……
「私ね。しばらく恋愛はお休みして、仕事に集中しようかなって……思ってて」
――だから、別れよう。
喉元まで出かかっているのに、その言葉だけがなかなか継げなかった。
そして沈黙の中、雨の音がやけに大きく聞こえて、その気まずさにいたたまれなくなってきた頃……
高いところから、予想外の言葉が降ってきた。
「……お前、誰に言ってんの?」