極甘上司に愛されてます
駅を素通りして線路脇の細い道に入り、踏切を渡った辺りから、胸に黒い雲がたちこめてきた。
……ここをまっすぐ行って、二個目の交差点を左に曲がったら、そこには渡部くんの住んでいるアパートがある。
二人でデートをした後でそこに寄り、何度も楽しい時間を過ごしたことのある……思い出の詰まった、彼の部屋。
その愛しい記憶をたどっているうちにどんどん足取りが重くなる私の手を、編集長は決して痛くはない強さで引っ張りながら進んで行く。
本当に、一人じゃなくてよかったな……
もはや尾行している二人の姿じゃなく、足元のアスファルトばかり見て歩く私は、そんなことを思う。
「……コンビニだな」
不意に足を止めた編集長が、そう呟く。
「コンビニ……?」
顔を上げると、運命の交差点の手前にあるビルの一階に入ったコンビニのドアを、渡部くんたちがくぐるところだった。
ここ、って……
私はある嫌な予感を胸に抱いて、ぎゅっと服の胸元をつかんだ。
渡部くんは優しい人。誠実な人。
……だから、手元にアレがなかった場合、よくここに買いに来ていた。