極甘上司に愛されてます
8.急接近の夜
“外で待ってる”の言葉通り、すぐ近くのビルの外壁に背中を預けて立つ編集長を見つけると、私はゆっくり近付いて行って、なんとか笑顔を作った。
「――ありがとうございました。やっぱり、黒でした。……もう、どうしようもないくらい。真っ黒、でした」
そう言い切ると、同情するような眼差しを向けられているのがわかった。
私はそれを真っ直ぐに見つめ返すことはできなくて、スタジャンの袖から覗いた手でせわしく自分の前髪を撫でながら、乾いた笑みを洩らしつづける。
すると小さく息を吐いた編集長が、私を見下ろしたままで静かに話し出す。
「……アイツ。店で会った時、お前のこと見て、“もしかして仕事か”と聞いてただろ。その時から薄々感じてたんだ、お前に対する愛情が薄っぺらいんじゃないかって」
「……? どうしてですか……」
仕事だと思われたのは編集長と一緒にいたからであって、そこに愛情も何も関係ないと思うんだけど……
「その格好」
編集長の視線が下から上にと往復して、それからまた私の目を見て言う。
「……どう見ても仕事用じゃねぇだろ」
「あ……」
私は思わず声を洩らし、それからワンピースの裾のレースをつかんだ。
そうだ……これは合コンを意識して着た女子っぽさ重視の服。……たぶん、渡部くんとのデートにも着て行ったことだってある。
職場が違ったって平日に会うこともあるから、仕事の時の私の服装だって、彼は何度も見たことがあるはずで……
つまり。
「……ホントに。どうでもよかったんですね、彼は私のこと」