極甘上司に愛されてます
自分の彼女がデートっぽい服装で、編集長のようなカッコイイ人とバーにいて。
それでも仕事かと聞いてきたのは、私のように彼を“信じてたから”というのではなくて、私のことがちゃんと見えていない証拠……編集長は、そう言いたいんだ。
「……泣かないんだな」
「え?」
「俺がいるから恥ずかしいとか思ってるんだったら気にすんな。溜め込むとよくないぞ?」
……やっぱり、編集長はいい人だ。
悪ガキなんかじゃない、思いやりのある大人の男の人。
私を気遣ってくれる彼の優しさに、堪えてるものがこみあげそうになる。
でも……私は泣かない。今はまだ。
「……泣くのは、特集記事が終わってからにします」
「……またそれかよ。終わるまであと何週間あると思ってるんだ」
呆れたように言う編集長を見上げて、私は声が震えないよう注意しながらこう言った。
「……たぶん。今泣いたら、その、“あと何週間”もずっと、泣き続けます……そういう、融通のきかない奴なんです、私」
不器用、必死って、編集長も言ってたじゃないですか。
……だから、今は仕事のことだけを考えさせて。
浮気されたどころか別れたことになっていて、それなのに二番目としてキープだけされているかもしれない哀れな自分からは、目を背けて――。
「お前は本当に……」
「馬鹿、ですよね……自分でも思います。あの、そんな世話の焼ける部下から、ひとつ、お願いがあるんですけど」
「お願い?」
借りていたジャンパーをするすると脱ぎ、眉を顰める編集長の手に返すと私は言う。
「今夜。このまま、一緒にいてくれませんか……?」