極甘上司に愛されてます


「やめとけ。今のお前に酒飲ませたら、荒れに荒れそうだ」

「……ですね。あ、代わりにコーヒー買って行きましょうか」

「駅前のとこなら0時までやってたな、確か」

「よし、決まり! ……あ、今回は絶対に私が払いますから」

「……じゃあお言葉に甘えるか」


それからコーヒーを買って会社に向かうまでの間、私は無理して“泣くな”と自分に言い聞かせる必要がなかった。

編集長にはもう全部知られているからか、変な緊張もなく、普通に会話ができて。

やっぱり彼は優しくて頼もしい上司――そう思い直すと、同時に疑問が湧きあがる。

彼は、私をからかって楽しむような人ではない。とすると、今までの色々なこと……特に、あの日のキスはなんだったんだろう。

素直に考えるなら、私に好意が……?

いやいやないない。まずこの年の差だし、毎日情けない姿見られてばかりだし。

……大人の考えることはよくわからないな。


「……晴れて来たな」


もうすぐ会社の前、というところで、夜空を仰いだ編集長が言う。


「ホントだ……」


雲の切れ間から、星が瞬いているのが見える。

あんなことがあった後だけれど、この空を綺麗だと思える自分にほっとした。

そういえば、前にもこんなことがあった。
あれは、編集長に向かって恋愛休業宣言をしてしまったとき……

それまで雨が降っていたのに、編集長に言われて見ると、こんな風にちぎれた雲が、隠していた星空を見せてくれたっけーー


そんなことを考えながらしばらく夜空の星を眺めていると、ふと視線を感じて横にいる編集長を見る。

目が合ったのに彼は何も言わず、けれど熱っぽく潤んだ瞳が星より綺麗で。
トクンと胸が鳴ったのを耳の奥で聴きながら、思わず見惚れていると――。

ザッ、と靴が地面を擦る音がして、次の瞬間には……


前にも一度触れたことのある柔らかな感触が、私の唇をふさいでいた。


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