極甘上司に愛されてます


……ん、なっ。

なんで、また、キス……っ。

瞬きを繰り返す私の目前には、編集長の凛々しい眉、伏せられた長い睫毛。

借りている服の何倍も濃い彼の香りに包まれて、体温と心拍数が急上昇する。

私の長い髪に差し込まれた手が耳を撫でるようにゆっくりと動き、首の後ろで固定されてしまったから逃げることができない。

そうして数秒間唇を押し付けられて、一度離れた……と思ったら、彼は最後に優しく私の上唇を啄んで、それからやっと、小さく音を立てて濡れた唇は離れて行った。

首の後ろにあった手も、同時にふっといなくなる。


「……行くか」


行くか……って、え?
今のキスの説明は……!?


「ま、待って下さい……!」


私に背を向け会社に入っていこうとする彼を、思わず呼び止める。

「ん?」と短く言って振り向いた表情には、動揺も、さっきまでの甘さもない。


「い、今のは……慰めですか? それとも同情?」


思い当たるキスの理由はそれくらいしかない。だからといって、そんな気持ちで唇を奪われることにいい気はしない。

一緒にいてほしいと頼んだのは私だけど、こういうことをしてもらいたいと思ったわけじゃないのに……

編集長は長い脚でゆっくりと私の方へ戻ってくると、ぼんやりと空を見上げて言う。


「あんまり綺麗だったから」


……まさか、夜空が綺麗だったからって言いたいの? そんな理由、納得できるわけが――



「ーー星を見るお前が」




< 87 / 264 >

この作品をシェア

pagetop