極甘上司に愛されてます
「……北見」
考えあぐねていると、片手で重たいガラスの扉を引いた編集長が、私を見る。
そしてもう一方の手を私の頭にそっと乗せると、微笑を浮かべて言った。
「難しいこと考えんのは、特集記事終わった後――だろ?」
わざと私の口癖を使って、キスのことごまかそうとしてる……?
でも、それでちょうどいいのかもしれない。
編集長には借りある。すぐには返せないほど、たくさん……
だから……今だけは、ごまかされてあげよう。
「そう、でしたね」
「お前、まだ写真見てなかったよな。いいの出来てるから、さっさと上行って確認」
「わかりました」
うなずいた私に、編集長は満足そうな笑みを返す。
彼氏の浮気も、上司からのキスも、仕事をしている間は、きっと心の中から追い出すことができる。
今の私が例の心理テストをやったなら、きっと……
【仕事120、恋マイナス、可愛げのない真面目OL】
……とか出るんだろうな。
まさかこんな形でお花畑から抜け出せるなんて、思ってもみなかった。
ホントに、私……何も見えていなかったんだな……
そんな自虐的なことを考えて小さく苦笑しながら、私は編集長の後に続いて二階のオフィスに上がって行った。