極甘上司に愛されてます


……違う。これはあの人の声じゃない。彼はもっと高音で爽やかだもの。

この、低くてがさがさした渋めの大人ボイスは、まさか。


「へ、編集長……!?」


パッと顔を上げた先には、雨で濡れた髪をきらきら輝かせ、呆れ顔をする編集長の姿。

もしかして私、今この人に別れを告げたの……?


「……とりあえず屋根のあるところに入れてくれ。話はそれからだ」

「は、はい……!」


私がいきなり頭を下げたりするものだから、正面から動けなかったらしい。

ちょうど軒下にぎりぎり入れてない場所にいた編集長が、大型犬みたいに首を振って雨の雫を飛ばし、私の隣に並ぶ。


「……どうして、ここに?」

「お前が呼び出したんだろーが。場所知らねぇからちょっと戸惑ったけど、この辺で待ち合わせする場所っつったらそんなに多くないからな。
ま、間違いだろうとは思ったけど、それ言ってやんないと一生待ちそうだから」

「間違い……ってことは、私まさか送る相手……」


すぐさまスマホを確認すると、昼間送った内容とともに表示されている名前は高槻透吾。編集長の名だ。

うわぁ……ホントに間違えてる。


「す、すいません! 今のは忘れてください――!」


仕事のことで編集長ともよくやり取りするとはいえ、打ちこむとき直前の会話が出るのになんで間違えたの?

いくら最近抜けてるからって、あまりにも……

念のため彼氏の方との最近のやりとりを確認すると、最後の会話が偶然にも編集長とまったく同じ「お願いします」「了解」という、あっさりしたもの。

だからって間違えたのか……私。

ホントに、とんだお花畑野郎だ……


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