極甘上司に愛されてます
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――俺が、小学生の頃の話だ。
リビングに両親が揃っているときを見計らい、学校で配られたプリントを持ってまず母親の側へと行った。
『ねえ、明日の授業参観なんだけど――』
『お父さんに聞いてみて透吾。私、大切な作家さんと打ち合わせがあるのよ』
洗濯物を畳んでいた彼女はその手を止めることなく言った。
『おいおい、俺も無理だ。何でも俺に押し付けようとするな』
赤ペンを手に書類を睨んでいる父親も、そこから目を離さず不機嫌そうに言う。
『何よ! 保育園の行事は私が全部参加したのよ』
『……小さいうちは周りが母親ばかりだからしかたないだろ』
『だからっていつも私に子供のことを任せきりよ!』
両親は夫婦共働き。かつ、二人とも大手出版社で編集の仕事をしていて、出る時間も帰る時間も日によってバラバラ。
その忙しさは子どもながらに大変なんだろうなと感じていた。
……だから、俺は。別に来て欲しいなんてひとことも言ってない。
『……そうやって、喧嘩するから。来なくていいよって、言おうと思ったんだ……』
そう言ってプリントを丸めゴミ箱に捨てる俺を見て、気まずそうな顔をする両親。
でもそれから彼らが授業参観の話をすることはなく、二人とも持ち帰ってきた仕事や家事を忙しく再開するだけ。
寝室のキャビネットの上にある結婚式の写真では、二人は寄り添い幸せそうに笑っているのに、どうしてこうなってしまったんだろう。
俺はそこに写る二人を見て、よく疑問に思ったものだった。