極甘上司に愛されてます





月日は流れ、家族で同じ家に住むことの意味がわからなくなった俺は、大学に入ると同時に家を出た。

決して家から通えない距離の学校ではなかったが、一人の方が気楽だと思ったし、両親も特に反対はしなかった。

春休みの間にバイクの免許を取りに行くと、興味はサッカーからバイクに移り、同時にやっと色気づいてきたらしい俺に、初めての彼女ができた。

同じ学部の同級生で、向こうから告白してきてくれて……素直に嬉しかった。

キスをしたのも、一夜を共にしたのも、バイクの後ろに乗せたのも、その子が初めて。

付き合いが長くなるにつれ周りの友達からは“夫婦”と冷やかされるまでになっていたが、就職を機に地元に帰るという彼女に、“遠恋はツラいし、社会人一年目はきっと、恋してる暇なんてないから”――と言われて、ダメになった。

彼女の地元は金沢。

そこの酒販メーカーの営業部に就職が決まっている彼女と、今の新聞社の編集部に内定をもらっていた俺にそれを覆す勇気はなかったし、距離が離れるのは俺も怖かった。

だから、これは前向きな別れ――二人で話し合ってそう結論を出し、俺たちは別々の道を選んだ。


そして大学を卒業して、就職して。

最初の二年は本当に恋愛している余裕などなく仕事ばかりにかまけていた俺だったが、翌年取材先のネイルサロンで出会った女性を好きになり、自分から告白した。

それが、北見と訪れたあの結婚式場で久々に再会した彼女――鹿沼留美だ。


< 95 / 264 >

この作品をシェア

pagetop