極甘上司に愛されてます


その頃、編集部でまだ下っ端の方だった俺。

あるとき面白半分の先輩に乗せられ、男であるにもかかわらず、取材の一環として留美の働く店のネイルケアを受けてみることになった。

白とエメラルドグリーンを基調とした明るい店内に、図体のでかい男の俺は明らかに場違い。

けれどあまり緊張せずに済んだのは、担当の留美が色々な会話で俺を和ませてくれたからだった。


『最近は、男の人でも指先に気を遣う方は多いんですよ?』

『……へえ』

『でも。正直高槻さんみたいなタイプの人は珍しいかも』


俺の手を軽く握り、平たい道具を使って俺の爪を磨いていた留美が言う。


『俺みたいなタイプ?』

『ここに来る男性は、スマートなスーツを着こなしたインテリ系の方が多くて』

『あぁ……なるほど。俺はどっちかっつーと筋肉バカ系なわけだ』

『そんなこと言ってませんよ。男らしくて素敵だと思います』


社交辞令だろうけど、手を握られながらそんな風に褒められ、男として当然どきりとするものがあった。

けれどそれ以上に、目の前のものに集中する彼女の真剣な眼差しにじりじりと胸を焼かれて、気が付けばこう言っていた。


『……仕事が終わるの、何時ですか?』

『今日は18時です。遅番の時は21時』


どうやら事務的に聞いたと思われたらしい。
顔を上げずにそう答えた留美は、道具を細い木のスティックに変えて、爪の処理を続ける。


『じゃあ、18時すぎにまたここに来ます』

『え? まだ何か取材したいことがあるんですか?』

『……まあ。個人的に、ですけど』

『個人的?』

『……もっと、知りたくなっちゃったんで。留美さんのこと』


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