極甘上司に愛されてます


そこでようやく顔を上げた彼女は目をぱちくりして俺を見た。

そして俺の言ったことが冗談でないと悟ると、急に少女のように頬を赤く染めて、照れた様子を見せた。


『ちょ……ちょっと。まだ途中なのに、手が震えちゃうじゃないですか』

『あまりこういうの言われ慣れてないんですか? ……留美さん綺麗なのに』

『き、キレイって……。だって、職場は全員女だし、男の人もときどき店に来るとはいえ、圧倒的に女性のお客さんの方が多いし』

『じゃあ、付き合ってる人もいない……って思っていいんですか?』


核心に触れる質問に、留美は黙ってこくりと頷いた。

久しぶりの恋の予感に、静かだった俺の胸は驚くほど高鳴った。


それから、俺は彼女を食事に誘って、色々な話をして……

彼女に決まった相手がいないのは、周りに異性が少ないことの他にも理由があることを知った。


『私、いつか自分のお店を持ちたいと思ってるんです。だから、どうしてもプライベートより仕事の方を優先させてしまって……』


出逢いになりそうな合コンや飲み会に行くのなら、ネイリストとしての技術を磨く時間に当てたい。
そんな思いからあまり誘いに乗らずにいたら、もう誘ってくれる人もいなくなって……

お酒を飲みつつ冗談交じりにそう語った彼女に、俺は言った。


『じゃあ、今日来てもらえたのはラッキーだったんですね』

『……と、いうか。本当は寂しいんだと思います。仕事が一番なのは揺らがないし、合コンとかに誘われなくなって、ほっとしているのも確か。
でも、毎日仕事仕事で疲れがたまって、ふっと緊張の糸が切れた時に、たまにむなしくなることもあって……』


それでも、頑張らなきゃいけないんですけどね。

思い直したように言う彼女の瞳は、悩みながらも未来に向かってきらきらと輝いているように見えて。

彼女をそばで応援してやりたい。俺が支えになってやりたいという思いが、自然と心の奥から湧いてきた。


< 97 / 264 >

この作品をシェア

pagetop