極甘上司に愛されてます


『……結婚?』

『ああ。だから、今度その彼女に会ってほしい』

『そうか……あなたももうそんな年なのね』


電話越しの母の声は、歳を取ったせいなのか昔のように棘がなく、穏やかだった。

そのことにほっとしたのもつかの間……母親は、突然こんなことを言い出した。


『結婚したら、相手の方には仕事を辞めてもらえるのかしら?』

『……え?』


仕事を、辞める……?
どうして急にそんな質問が飛び出したのかわからず、けれど俺はありのままを告げる。


『……そんなつもりはない。彼女はネイリストで、ゆくゆくは自分の店を持ちたいと思ってるんだ』

『ネイリスト……じゃあ忙しいわねきっと。でも、それじゃ私はあなたたちの結婚に賛成できないわ』

『……? なんでだよ』


声のトーンを落とし、深刻そうに言った母親の言葉の真意がわからない。

留美が仕事をしていることを、どうしてそんなに問題視する?
自分自身だってずっと……


『お袋だってずっと働いてたろ。仕事を大事にしたいって言う彼女の気持ち、わかるんじゃないのか?』

『わかるわよ……よくわかる。だけど、私が仕事ばかりしていたせいで、あなたにツライ思いをさせてきた。そのこと、後悔してるのよ……私も、お父さんも』


後悔……? 何を今さら。

俺が黙って鼻白んでいると、母親はさらに続けた。


< 99 / 264 >

この作品をシェア

pagetop