極甘上司に愛されてます
『……結婚?』
『ああ。だから、今度その彼女に会ってほしい』
『そうか……あなたももうそんな年なのね』
電話越しの母の声は、歳を取ったせいなのか昔のように棘がなく、穏やかだった。
そのことにほっとしたのもつかの間……母親は、突然こんなことを言い出した。
『結婚したら、相手の方には仕事を辞めてもらえるのかしら?』
『……え?』
仕事を、辞める……?
どうして急にそんな質問が飛び出したのかわからず、けれど俺はありのままを告げる。
『……そんなつもりはない。彼女はネイリストで、ゆくゆくは自分の店を持ちたいと思ってるんだ』
『ネイリスト……じゃあ忙しいわねきっと。でも、それじゃ私はあなたたちの結婚に賛成できないわ』
『……? なんでだよ』
声のトーンを落とし、深刻そうに言った母親の言葉の真意がわからない。
留美が仕事をしていることを、どうしてそんなに問題視する?
自分自身だってずっと……
『お袋だってずっと働いてたろ。仕事を大事にしたいって言う彼女の気持ち、わかるんじゃないのか?』
『わかるわよ……よくわかる。だけど、私が仕事ばかりしていたせいで、あなたにツライ思いをさせてきた。そのこと、後悔してるのよ……私も、お父さんも』
後悔……? 何を今さら。
俺が黙って鼻白んでいると、母親はさらに続けた。