俺様富豪と甘く危険な恋
◇第1章◇

がっかりな香港旅行

香港九龍島(クーロン)サイド、尖沙咀(チムサアチョイ)のスーペリアクラスのホテルに滞在していた水野栞南(ミズノカンナ)は、窓から望める香港島のビル群を最後の見納めと、光景を焼きつけるように見ていた。

スーペリアクラスのホテルでヴィクトリア・ハーバーの向こう側、香港島が見渡せるのは珍しく、混む時期を外したおかげだろう。

景色は素晴らしく、朝は霞みがかったハーバー沿いのビル群に昇る太陽のオレンジ色が当たり神々しく感じる。

夜はこの2日間、この部屋の窓から高層ビルの夜景を見て過ごしたことを栞南は思い出し、ローズ系のルージュを塗った口から大きなため息を漏らす。


(せっかくの香港旅行だったのに、もったいなかったな……)


ヴィクトリア・ハーバーで毎晩20時から13分間、音と光のショーが行われるのだが、残念なことに栞南は香港到着翌日から熱と腹痛で部屋から出られなかった。

音と光のショーを鑑賞するのに、ベストポジションと言われるヴィクトリア・ハーバー沿いの高架式遊歩道で見たかったと、がっかりしている。

12月の中旬、香港旅行が決まってから買ったガイドブック。

主要な観光ポイントを回ろうと何度も見て勉強し、今では読み込まれた年季の入った本になっている。

しかし、それが使われたのは最初の日だけ。



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