俺様富豪と甘く危険な恋
「そんなに警戒しなくてもいい。悪いようにはしない」


日本語だった。

彼はゆっくり立ち上がると、栞南に背を向け部屋のライトを点けた。


「警戒するに決まってます! あっ! 今何時っ!?」


明るくなり豪華な部屋が浮かび上がるが、栞南の意識は自分の腕時計だった。時計を見ると、19時。

予約していた飛行機はとっくに旅立ってしまっていた。いや、もうすぐ羽田空港に到着する。


「飛行機っ!」


青ざめパニックになる一歩手前の栞南は、陸に上がった魚のように口をパクパクさせ声がでない。

栞南に背を向けている男はホテルの受話器を取り、静かな口調で栞南には理解できない言葉で話している。


(この人、日本人? それともこっちの人?)


現地の広東語を話しているらしい男に、再び香港マフィアの文字が浮かぶ。


(冷静にならなきゃ)


自分に言い聞かせるものの、全身が小刻みに震えている。


(悪いようにはしないって、信用できるわけない。私、香港の海に沈められちゃうかもしれない。逃げなきゃ!)


その身体を奮い立たせ、なんとかドアに向かって走った。

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