俺様富豪と甘く危険な恋
「金持ちになりたいのか?」

「普通のOLですよ? それなりに余裕がほしいですもん」


そう言ってスリッパに手を伸ばすと、蓮が脇から手を伸ばし店の男性に渡す。


「ありがとうございます。とても履き心地が良さそう。ルームスリッパにしますね!」


時間が経つにつれて日本に帰るんだという事実が大きくなっていく。

その後も出店でポテトフライやココナッツジュースを飲んだりしたが、お互いが無口になりつつあった。

別れの時間が近づき、まだまだ一緒にいたいと焦る気持ちは蓮にとって初めてのことだった。


「栞南、次はスターフェリーだ」

「ぁ! それを忘れていました!」


ふたりはMTRで尖沙咀(チムサアチョイ)の駅まで戻り、歩いてスターフェリー乗り場へぶらぶら歩いた。

スターフェリーのあるヴィクトリア・ハーバーでは、20時からのシンフォニー・オブ・ライツまで1時間ほどあるが、各国の観光客が溢れかえっていた。

それを横目に香港島へ渡るスターフェリー乗り場へ歩いていく。


「もしかして、スターフェリーに乗る機会もあまりないですか?」

「ああ」

「香港に住んでいてもったいないです。こんなにステキな景色なのにっ」

「住んでいると麻痺してしまうんだ。そのうち栞南も今みたいに感激しなくなるだろう」


席につくと、蓮は栞南の背もたれに腕を投げ出す。


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