俺様富豪と甘く危険な恋
「スニーカーだったのね。もう、このヒール途中で投げ捨てようかと思ったわ」


10センチはある真っ赤なヒールに苛立ちながら、ソフィアは駆けてきた。ようやくベンチの前でぼんやり立っている栞南を見つけてホッと安堵したのだ。

タイミングよく来たバスに乗って行ってしまったのだろうかと、心配になりながらだった。

流暢な日本語でユーモアたっぷりに話す美しい女性に、栞南の眉根が微かに寄る。


(どうしてこの人は追ってきたの?)


傷心の自分に追い打ちをかけに来たのだろうかと、怪訝そうな顔つきになる。


「そんな顔をしないで。敵を見るような目つきなんて、あなたには似合わないわよ」

「……なぜ? どうして……?」

「レンのこと、私が説明するわ」

「もういいんです。美しいあなたに惹かれるのは――」

「だからっ、説明するって言ってるの! あっちへ行きましょう」


中国人の観光客の団体がぞろぞろとこちらへ歩いてくるのが見えて、ソフィアは栞南の手をつかむと、砂浜に向かって歩き出した。

栞南は呆気にとられ、引っ張られるまま歩みを進める。

< 256 / 369 >

この作品をシェア

pagetop