俺様富豪と甘く危険な恋
中環(セントラル)の街では車がけっこう走っていたが、少し走り両側1車線の道を登って行くと1台も見なくなった。


(ということはボディーガードも近くにいないはず)


そう考えると、恐怖心が沸き起こり栞南は自分の両腕を抱きかかえるようにして無意識に擦る。


(もう……神経がもちそうもないよ……どうなっちゃうんだろう。私……)


ふと窓の外を見ると、遠くにビル群の灯りがぼんやり見える。目線より下にビル群が見えると言うことは、高いところを走っているようだ。


「朝日奈さん、どのくらいで着きますか?」

「着いたら教えてやるから寝てろ」


きっぱり言われて栞南は心の中で深くため息をついた。

楽しく会話できそうもない。

寝ていろと言われても神経がとがって眠れない。カーブばかりある車の揺れ心地は気持ちよいのだが。

シーンと静まり返る車内。時折アクセル音とブレーキ音だけが車体に響く。

もう2時間は走っていた。


(香港島もそれほど広くないんだけど……)


九龍島なら国境を境に隣は中国だから行けども行けども広大な土地はあるが、香港島は島だ。

これほど時間がかかる目的地はどこなのだろうか。

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