俺様富豪と甘く危険な恋

慣れない生活

「ってことは、ここは淺水灣(レパルス・ベイ)なんですね? でも、2時間以上走っていましたよね? ガイドブックでは中環からバスで30分ほどの距離だって書いてあったのに」

「尾行されないよう念には念を入れて走り回っていただけだ」

「尾行はされていたんですか?」

「いや」


リッツ・カールトンを出たところからつけられていたが、香港島に入り中環のビルの駐車場付近で巻いたようだった。そう分かっていても念のため蓮は慎重に移動した。

そこへキッチンからダニエルが現れた。


「どうぞ、こちらへ」


丸い大理石のテーブルは8人の席で、栞南は蓮から一席離れたイスに座らされる。窓から外が見えて落ち込んでいる気持ちが少し上昇する。


「あ、私の携帯電話持っているんですよね? 返してください。会社に電話してみないと……」


普段栞南が飲むようなインスタントコーヒーの香りではなく、高級そうな香ばしい匂いのするコーヒーにお砂糖とミルクを入れて一口飲む。


(美味しい。そう言えばこっちへ来てからコーヒーを飲んでいなかった)


4日間飲んでいないコーヒー。コーヒー好きの栞南には珍しい。


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