俺様富豪と甘く危険な恋
栞南は自分のワンルームのマンションを思い浮かべる。


(ここの洗濯ルームと自分のワンルームマンションの部屋の面積が同じだなんて……)


ずいぶん広いマンションのようだ。


アイロン台の向こうにドアを見つけ、探究心を抑えられない栞南は開けてみた。

そこは簡易ベッドと机があり、どうやらメイドの部屋のようだ。生活道具が置かれていないことから、ここにメイドはいないと考える。

洗濯ルームにも男性の服が全くない。


(朝日奈さん、ここには普段いないみたい)


ここのマンションに生活感が感じられなかった。



下のレストランから運ばれてきた食事を食べ、ふわっと乾燥された洗濯物を畳み、バスタブにゆっくり浸かって文句なしの生活なのに、栞南の気持ちは落ち着かない。

持っている唯一のミステリー小説は殺人事件が起こってばかりで、自分と重ねあわせてしまい読む気がなくなった。

栞南は部屋のごみ箱に小説を捨てた。


(もっと楽しい小説を買えば良かったな)


旅先で枕が変わるとなかなか寝付けない栞南は、眠気を誘う道具としてミステリー小説を羽田空港の書店で買ったのだ。


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