キングとナイト
「私の……母、なんです。2年前、亡くなりました」

若干俯きながら言う、夷隅。

「会長、リビングあっちです。行きましょう」

ばっと顔を上げて、笑う夷隅。
その目には、涙が滲んでいた。



「ソファーにでも座っててください」

リビングには、必要最低限の物しか置いて無かった。
まるで、俺ん家みたいだ。つまり、一人暮らしをしてる奴の家みたいだということ。

「なぁ、夷隅。お前、親父さんは?」

俺の問いに、キッチンでお茶を入れていた夷隅が固まった。

「居ますよ。嫌だなー、会長。まさか、こんなに広い家に一人暮らしな訳ありませんよ」

何かを揉み消す様に夷隅は言った。
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