聖夜の忘れ形見
「いや…。さっきも言った通り、僕は小夜のことを愛してる。小夜以外に女は居ないよ」


「………私が…初めて、ですか?」


不安も恥ずかしさもあったが、ここまで来たらもう正直に聞いてしまおう

そう思い、虎太郎に尋ねる


「………それは…済まない」


「え───…?」


「大学時代、先輩に誘われてどうしても断れなくてね…。何度か遊郭に足を運んだことがある」


私が初めてじゃないんだ


いくら先輩の誘いとはいえ

相手が商売とはいえ…初めてを遊女に差し出してしまったのか


そう思うと、小夜の胸は引き裂かれたように痛んだ

涙が頬をこぼれ落ちる


「………小夜…」


「すっ…すみません!」


結婚した夫が他の女を作っても文句を言われない時代

結婚した妻が他の男と遊んだ場合、姦通罪になる時代

結婚前の男が遊んだところで、文句を言う筋合いなどどこにもないのだ


「他の女とは、その時限りだよ。あとは小夜だけだ」


小夜の頬に流れる涙をすくい、優しく語りかける
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