聖夜の忘れ形見
※※※



「何ですの?」


屋敷へ着くと、多くの弔問客で埋め尽くされていた

冷たい視線を投げつけてきた静の頬には、涙の跡がくっきりと残っている


「こ………虎太郎さんが…」


小夜の言いたいことを理解したのか、静は顎で屋敷の奥を指し示した

ざわざわと、言葉に出来ない何かが足元から這い上がってくる


屋敷の門をくぐるのが怖い

だけど、行ってこの目で確かめなければ


折れそうになる気持ちを奮い立たせ、小夜は人を掻き分け屋敷の中に入った


「………う、そ…」


女中に通された部屋

白い布を顔に被され布団に横たえられていたのは、紛れもなく虎太郎その人だった

足元から崩れ落ちる


「いや………虎太郎………さん…。虎太郎さん、起きて………。目を………覚まして下さい…」


震える声で、虎太郎の胸元辺りを揺すった


「ちょっと、君!」


男の人に腕を掴まれ、制止される


「ねぇ、虎太郎さん!お願いです、私を置いて行かないで!虎太郎さん!虎太郎さん!!───っ…、いやぁああああああああああ」


男の人の手を振り払い、虎太郎の上に身を被せただひたすら泣いた
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