君のとなりに
* * *

「まず風呂入れ。」
「ここで脱いでいい?」
「いいわけあるか。風呂場行けよ。」
「…はぁい。」

 もう、素直に従ってしまおうと思う。かなり心も落ち着いてきた。ざわざわしていないと言えば嘘になるけれど、涙はどうにか引っ込む程度には呼吸ができる。
 降谷は几帳面なようだ。シャンプーやボディソープなどのものはきちんと並べられているし、カビもない。降谷の香りがするバスルームで、熱いシャワーを全身に浴びる。


* * *

「お風呂ありがとう。」
「あったまったか?」
「…すごぉーく。」
「ご要望のメシ、作っといた。」
「今日はなに?」
「チャーハン。」
「チャーハン!」

 本当に今出来上がったようだ。ほかほかと白い湯気をたてたチャーハンから香る香ばしい匂いが、桜の花をくすぐった。

「こんなに食うか、お前。」
「食べる!」

 目の前にゴトンと置かれた大きめの皿。桜はゆっくりと手を合わせた。

「…いただきます。」
「そういうとこは行儀いいよな、お前。」
「え?」
「選択に間違いは多いけど、そもそもの品はそこまで悪くねぇって話。」
「…褒められてないってのはわかった。」
「そこまでけなしてもない。いいから食え。冷める。」

 レンゲで掬って口に含むと、一気に幸せが桜の身体を満たした。自分は相当お腹を減らしていたらしい。

「…美味しい。」
「口に合ってよかった。」

 またふわりと笑みが落ちた。笑顔を見せられると、一瞬桜の時が止まる。目を奪われてしまうからだ。
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