君のとなりに
 結構な量を食べ終え食器を片付けると、食後のコーヒーが出てきた。

「降谷さんのお家のコーヒーは美味しくて好き。」
「1回しか飲んだことねぇだろ。」
「それでも美味しかったのはちゃんと覚えてるし。」
「…はいはい。まぁ、一服したら話せば?」
「…何を?」
「泣いてた理由。」
「え…?」

 このまま話を聞かずに、ここに一晩置いてくれるのだと思った。それなのに、降谷の方ときたら、突然核心をついてきた。

「…誰かに聞いてほしかったから、俺を頼ってきたんだろ?」
「っ…。」

 言葉が出なかった。あんなにすらすらと話せていたのに、声が消え失せてしまったのではないかと思えるくらいに喉の奥が重かった。
 でも、そうなってしまったのは多分、降谷の言うことが真実だからなのだろう。きっと、誰かに聞いてほしかった。その誰かを選びたかった。

「…何があった。」
「…時間、かかるよ。話すのに。」
「明日は休みだ。」
「多分泣くよ、あたし。」
「だろうな。もう涙声だ。」
「…酷いやつなんだよ、あたし。」
「…酷いやつだと、お前が思いたいんだろ?」
「違う!本当にあたしは最低で…!」

 こんなに感情をむき出しにするつもりなんてなかった。それなのに、降谷を目の前にすると今まで上手にコントロールできていたものが全然できなくなってしまう。ただの我儘な子供みたいに、涙を堪えて叫ぶしかできなくなる。

「お前が酷かろうが、最低だろうが何だろうが俺は全部どうだっていい。お前が話したくねぇなら、それでもいい。全部お前が決めろ。お前がお前のために、決めてみろ。」

 降谷は嘘をつかない。自分とは全く違う生き方を選んできた人間であることは明白だ。だからこんなにも、降谷の言葉に安心して、いつもとは違うことが言えてしまうのだろう。

「…話、聞いてくれるの?」
「お前が話したいなら、聞く。」
「…話し、たい、…です。」
「わかった。」

 降谷はコーヒーを一口すすった。
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