君のとなりに
「嫌いじゃねぇけど、そういう意味で今好きだとは思わない。ただ、危ないことはするんじゃねーくらいには思ってる。」
「…なにそれ。親?」
「…かもな。大体、いくつ離れてると思ってんだよ。」
「降谷さん、何歳?」
「28。」
「8つ違い。そんなに離れてないじゃん。」
「8つはお前の中でそんなに離れてないなのかよ…ったく。つーか、俺の話はいい。お前は気が済んだのか?」
「…うん。泣けてすっきりした、かも。」
「じゃあいい。」

 降谷は桜から離れ、すっと立ち上がった。急に身体が冷えたように感じられて、桜は思わず降谷の服の裾を引いた。

「…なんだよ。」
「今日、泊めて。」
「対価は?」
「あたし。」
「いらない。」
「…何が欲しいの?」
「…なんだろうな、休み、時間などなど。
「そんなのあげられないし。」
「…いらねぇよ。どうせ泊まりたいって言うだろうなくらいにはお前の思考読めてんだよ。気が済んだんならとっとと寝ろ。」

 再び降谷が桜に背を向けた。

「降谷さん。」
「…一緒には寝ない。」
「…ほんとにあたしの言いたいことわかってる…。」
「一人で寝たくないとかわがまま言いそうだもんな、お前。」
「…同じベッドにいてほしい。降谷さんが近くにいるだけで、安心できるから。」
「…ったく、お前は一体いくつだよわがまま女。」

 今日の降谷は、普段の仕事の時よりもずっと優しい。なんだかんだ言いながらも、結局桜の我儘を受け入れてくれる。
 甘えている、という自覚はある。甘えてはいけない、ということもわかっている。それでも、今日だけは優しくしてくれるであろう人だと思って甘えてしまいたい。
 …明日には、ちゃんと『持田桜』に戻るから。今日だけは、感情のままにいさせてほしい。
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