君のとなりに
嫌いになればいい
* * *

「ん…。」

 鈍く痛む頭を抱えて目を開けると、コーヒーの匂いがした。

「大学生だっけ。時間は大丈夫?8時だけど。」
「ん…ここ…どこ…?」

 眠い目を擦りながら身体を起こした。服はちゃんと着ている。

「俺の家。どこまで覚えてる?」

 低い声が耳に優しい。ベッドの横にある小さな机の上にコーヒーカップが置かれた。

「ブラック?ミルクいる?」
「ブラックで大丈夫。」
「どうぞ。」

 言い方はやはりぶっきらぼうで、顔は仏頂面である。しかし服を着ているということは、意識を失っている間は何もなかったのか。それとも、一線を越えて、服を着せる趣味のあるやつだったのか。

「…あのさ。」
「なに?」
「この家に一晩泊まったんだよね、あたし。」
「そう。家わかったら家まで送ったけど。」
「何で、服着てるの?」
「何でって脱がせてないから以外に答え、ある?」

 さらりと言われた一言に『お前になんてキョーミない』って言われたような気がした。おそらく本気でそういう意味で言っているのだろうけど。

「…いつもこんな風に持ち帰られてんの?」
「…まぁ、そんな感じ。」
「持ち帰った側の人間が何言っても信じてもらえないとは思うけど、一応言っておく。大事にしろ、自分を。」

『俺みたいに持ち帰っても手ぇ出さないやつの方がいないから。』
 付け足すように言われた言葉に何も言えなくて、黙ってコーヒーをすすった。
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