キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
1・鬼の住処
地下鉄の駅を出てすぐのところにあるファッションビル。
そのB1Fにあるロリータファッションのお店の奥に、私は座っていた。
決して、25歳になる私が自らロリータを纏おうとしているわけではない。
用があるのは、目の前にいるお姉さんだけ。
「……で、何を悩んでいらっしゃるの?」
真っ黒なゴスロリ服で身を固め、髪は縦ロールにし、お人形のようなメイクをほどこした彼女は、年齢不詳。
服と同じく真っ黒に塗った爪がついた手で、タロットカードをいじっている。
そう、このお店の奥の一角では、このお姉さんが占いをしてくれるのだ。
友達から良く当たると紹介され、私は初めてこのお店を訪ねた。
「会社を辞めようと思っていまして……次はどんな職業がいいかなあ、と……」
占い師のお姉さんはうなずくと、私たちの真ん中にある小さな丸テーブルの上でタロットカードをシャッフルしはじめた。
そして置かれたカードをながめ、囁くような声で話し出す。
「あなたは今、上司に裏切られたような気持ちでいるのね」
「そう!そうなんです!いきなり異動って言われて──」
事情を説明しようとしたあたしを、占い師は手のひらを出して制した。
何も言わなくてもわかる、と言うように。
──事の始まりは一週間前。
勤めていたメガネ店が閉店することになり、その準備をしているときだった。
たまにしか現れない地区長が、他店に送るフレームを箱詰めしていた私のところに来て言ったんだ。
「はっちゃんごめんね。地区異動決まっちゃった」
と……。
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