キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「し、仕事中ですので。失礼しますっ」
目を合わせないまま去ろうとすると、あろうことかぐっと腕をつかまれてしまった。
「あなた……この前、矢崎君と一緒にいた……?」
気づかれた。
どっと冷汗が出る。
この前とは服装や髪形、メガネが違うとはいえ、やっぱり至近距離で見ればばれてしまうのは無理もない。
「悪いことは言わないわ。遊ばれる前に、矢崎君から離れなさい」
遊ばれる?突然、何言ってるの?
勇気を出して顔を上げ、相手の目を見つめる。
綺麗だ。とても綺麗な顔立ちの……とても怖いひと。
「私はただの部下ですから」
「そんな言い訳通用しないわ。矢崎君は入社以来、何人もの女子社員を泣かせてきてるのよ。社内恋愛は嫌いだからって、誰に告白されても断ってたの。誤解させるような真似も、極力避けていた。そんな彼が、ただの部下を休日に競合店調査に誘うわけないわ」
「そう、言われましても……」
仕事中だって言ってるのに、菜穂さんは私を離す様子を見せない。
「でも、勘違いしないことね。あなたは所詮、遊ばれるだけに選ばれたのよ。残り少ないこの土地での時間を、楽しく過ごすためにね」
残り少ない時間?
首をかしげる私に、菜穂さんは心底意地悪く微笑み、赤い唇で告げる。
「矢崎君は地区長試験に受かったら、愛知に異動することが決まっているのよ」
「えっ?」
何それ。初耳なんだけど。