キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


地区長になるって、まだ決まったわけじゃないのに。

杉田さんも店長が試験に落ちるとは思っていないみたい。


「でも、あんな風に追って来られたら、男は恐怖を感じるだけですよねえ、杉田さん」

「まったくもって、長井くんの言う通りだよ」


二人は並んで『おお、怖い』と自分の腕をさすった。

すごい……一回ハッキリと断られているのに、あの強引さ。

思い込みの激しさって、ときに人を強くするのね。

それにしても、あの人が言っていたことは本当なんだろうか?


「あの、店長って地区長に昇進したら、異動があるんですか?」

「そんなこと言ってたの?地区長試験のこと、平尾さんに聞いたんだな」

「すべての人が異動ってわけじゃないよ。ただ、矢崎店長は地区長に上がったら愛知に呼ばれるって噂は、前からあるね」


愛知……ここからじゃ、新幹線で3時間くらいだ。

ものすごく遠くじゃないけれど、会いたくなったらすぐ会えるという距離じゃない。


「あの女は帰ったか?」

「は、はい!」


矢崎店長が休憩を終えてきて、無駄話をしていた私たちはいっせいに緊張し、それぞれの仕事に戻る。

長井くんは私が菜穂さんに捕獲された動画を店長に見せていた。

思い切り眉をひそめる店長とは目を合わせず、私はさっきのお客様のレンズを注文する。


ねえ、どうして?

どうして、地区異動の可能性があると、一言教えておいてくれなかったの。

他の人の口からじゃなく、あなたから聞きたかったのに。


そんなふうに考えると、胸が痛かった。

噂は噂、本人の口から聞くまでは信じるまいと、ぐっと唇を強く結ぶ。


泣くものか。まだ、仕事中なのだから。



< 114 / 229 >

この作品をシェア

pagetop