キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
地区長になるって、まだ決まったわけじゃないのに。
杉田さんも店長が試験に落ちるとは思っていないみたい。
「でも、あんな風に追って来られたら、男は恐怖を感じるだけですよねえ、杉田さん」
「まったくもって、長井くんの言う通りだよ」
二人は並んで『おお、怖い』と自分の腕をさすった。
すごい……一回ハッキリと断られているのに、あの強引さ。
思い込みの激しさって、ときに人を強くするのね。
それにしても、あの人が言っていたことは本当なんだろうか?
「あの、店長って地区長に昇進したら、異動があるんですか?」
「そんなこと言ってたの?地区長試験のこと、平尾さんに聞いたんだな」
「すべての人が異動ってわけじゃないよ。ただ、矢崎店長は地区長に上がったら愛知に呼ばれるって噂は、前からあるね」
愛知……ここからじゃ、新幹線で3時間くらいだ。
ものすごく遠くじゃないけれど、会いたくなったらすぐ会えるという距離じゃない。
「あの女は帰ったか?」
「は、はい!」
矢崎店長が休憩を終えてきて、無駄話をしていた私たちはいっせいに緊張し、それぞれの仕事に戻る。
長井くんは私が菜穂さんに捕獲された動画を店長に見せていた。
思い切り眉をひそめる店長とは目を合わせず、私はさっきのお客様のレンズを注文する。
ねえ、どうして?
どうして、地区異動の可能性があると、一言教えておいてくれなかったの。
他の人の口からじゃなく、あなたから聞きたかったのに。
そんなふうに考えると、胸が痛かった。
噂は噂、本人の口から聞くまでは信じるまいと、ぐっと唇を強く結ぶ。
泣くものか。まだ、仕事中なのだから。