キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
やっと閉店時間になり、それぞれ帰路につく。
私はおそるおそる裏口のドアを開け、ホッと安堵のため息をついた。
もしかして、菜穂さんがここが開くタイミングを見計らって特攻してくるんじゃ……なんて思っていたから。
あの強烈キャラの出現は、ちょっとしたトラウマになってしまったみたい。
「じゃあ、お疲れ様」
長井くんと杉田さんが先に帰っていく。
私はちらりと寮の方を振り返った。
異動の話……聞くべきだろうけど、いきなり特攻したらそれこそ嫌われたりしないかな。
逡巡していると、ゆっくりと裏口のドアが開いた。
「他の二人は?」
顔を出したのは矢崎店長だ。
「あ……もういません」
「そうか」
店長はスーツのまま外に出てきて、ドアに鍵をかける。
「コンビニに買い物か何かですか?」
聞くと、店長は首を横に振った。
「駅まで送っていく」
そう言って、さりげなく私の手をとると、ゆっくりと歩き出した。
加工のしすぎで荒れてしまった手が、温かい。
「いったいどういう風の吹き回しで?」
ビックリしてしまうと、どうも可愛くない物言いをしてしまう。
「送りたいから、送っていく」
矢崎店長は不快そうな顔もせずに、私の嫌味みたいな発言を受け流す。
一本裏の道に入れば、夜の闇の中に響くのは、二人の足音だけ。
やがて沈黙を破ったのは、矢崎店長の方だった。