キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
こんな落ち着いた大人のお店、初めて来た。
「いらっしゃい……って、陽(よう)じゃん」
「お客さん連れてきたぜー。できれば個室使わせて」
「なんだよ、いつのまに彼女できたんだよ」
黒服だけどバーテンではなさそうな、同い年くらいの男の子が長井くんに親しげに話しかける。
長井くんって、陽くんって言うんだっけ。ピッタリな名前だな。
「彼女じゃないよ。同じ店の女の子」
「だけど、狙っている、と」
「あほ。余計なこと言うな」
個室に案内してもらう間も、お友達の店員さんは明るく話し続けていた。
部屋で適当に甘いお酒と食べ物を注文すると、店員さんはそれ以降は無駄話せず、忙しそうに去っていった。
「それで、今日何があったの?」
ぼんやりした照明の中で、長井くんが尋ねる。
私はぼそぼそと、今日あったことを話した。
その間に飲み物が運ばれて来る。
「そっか。けっこう地区内中に、その……はっちゃんが矢崎店長を誘惑して味方につけて、邪魔な人間を店から追い出しているって噂が広まってるんだね」
どうやら、私が思っていたより事態は悪いみたい。
長井くんが言った後半部分は、彼自身が他の社員から聞いたこと。私が聞いた前半部分に、そんな憶測まで尾ひれをつけて飛び交っているらしい。
「私、そんなことしてないよ。杉田さんも平尾さんも、勝手に自爆しただけなのに」
チーズを春巻きの皮に包んで揚げたようなものをぶすぶすフォークで刺しながら言うと、長井くんはうなずいた。