キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「はっちゃん」
名前を呼ばれたら、突然頬が濡れるような感触がした。
水滴が一筋あごを伝って、ぽたりと地面に落ちる。
それは間隔を置かず、何度も何度も零れて落ちた。
自分が泣いていると気づいたのは、思わず嗚咽が漏れてしまったから。
慌てて口を手で閉じると、長井くんが私をそっと抱き寄せた。
仕事中はしない、シトラス系の香水の香りが、ふわりと私を包む。
「我慢しなくていいよ」
「……っ……」
「俺には言いたいこと、言っていいんだよ」
そう聞こえた途端、体中から力が抜けた。
そのとき初めて、私は、普段どんなに全身に力を入れて、気を張り詰めてきたのか、思い知ったような気がした。
支えてくれる長井くんに、本音を吐き出す。
「わ、たし、本当は……」
「うん」
「店長と……内緒で、つきあって、て……」
一瞬、長井くんの息が止まったような気がする。
けれど彼は小さくため息をつくと、落ち着いた声音で聞いてきた。
「いつから?」
「2週間くらい、前」
「つい最近か」
うなずくと、今度は深いため息が聞こえてきた。
「じゃあなんで、あいつは他の人といるのさ?」
「わかんない……どうしてかなあ、長井くん」