キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
2・鬼の教育
「椎名!ちょっとこっち来い!」
異動翌日、早速鬼面の矢崎店長に加工台の裏に呼ばれてしまった。
初日はそれほど忙しくなく、接客もしたけれど、無事に終えることができた。
はずだったんだけど……。
「お前はアホか!これをそのまま頼んだら径が足りねえだろうが!」
けい?なんのこと?
ぽかんと店長を見上げると、盛大なため息を吐かれた。
「いいか、このレンズの直径は、この度数だと70mmしかねえんだよ」
「はあ」
お客様がいないのを良いことに、店長はべらんめえ口調でまくしたてる。
「でもこのお客さん、PDが狭いだろ?なのにお前が、こんなでかいフレームすすめやがっただろ?だから、これだと径が75ねえと足りねえんだよ」
……つまり、顔が小さくて目と目の距離が近いお客様が、大きなメガネを選んでいった。
けれど、そのお客様の度数(強度の遠視)だと、レンズの直径が普通より小さくなってしまう。
で、加工の段階でレンズの中心を黒目の位置に合わせると、レンズが小さくて、耳側が足りなくなってしまう……結局、削れないからメガネが作れないということみたい。
「お前さ、径の計算の仕方くらい教えてもらわなかったのか?」
「すみません」
教えてもらったっけ。覚えてないってことは、教えてもらってないのかな。
お客様は、おじいちゃんで強度遠視と乱視で、ものすごい度数だった。
前の店では、少しでも面倒くさそうなお客様は、全部おじさん社員さんたちに丸投げしてたんだよね。