キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「初芽?」
今度は、心臓が止まるような気がした。
やっぱり、あの立ち方は俊だ。
声を聞いて確信すると、なぜか体が勝手に、部屋とは逆の方向へ走り出す。
「初芽!」
追いかけてくる足音。
それから逃れようと、全速力で走る体。
逃げていてもどうしようもないと、麻耶ちゃんと話したばかりなのに。
そんな思いとは裏腹に、私の本能はいいから逃げろと命じる。
「待て!おいっ!」
鬼が追ってくる。
私はぺたんこシューズで、もと来た道をダッシュした。
けれど、どれだけ頑張っても男の人の足にかなうわけもなく。
「初芽!」
とうとう、手首をつかまれてしまった。
ぐいっと引かれ、よろける。
「逃げるなよ……」
そのまま背中から強引に引き寄せられて、気づけば私は相手の腕の中に、すっぽりと収まっていた。
全力で走ったのと、俊のにおいに包まれたのとで、心臓がドキドキと早い鼓動を刻む。
「また逃げたら、叫ぶぞ」
私を捕まえた鬼は、そう言って脅しをかける。
いや、これって、私が叫ぶ方なのでは……?
「ねえ、あれって大丈夫なのかな」
「警察呼んだ方がよくね?」
ちょうど近くを通りかかった大学生らしきカップルが、ひそひそとこちらを見て話している。
「だ、大丈夫ですよ~」
得意の作り笑顔で言うと、彼らは気味悪がって、早足でその場を去っていった。