キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
でも今回は、ちょうどみんなの手がふさがっていて、自分で検査して、フレームもレンズも販売するしかなかったから、そうしただけ。
「なんでこんなの選んだんだよ。だいたいこれじゃ、径が足りるかどうかの前に、似合わないだろうが。それくらい見てわかるだろ?」
「お客様が、そうしたいって言うから」
とにかく視界を確保するために、大きなフレームが良いと言われ、度数を強くしろと言われ、ガラスレンズ以外は嫌だと言われたから、そのようにしたまで。別に私がすすめたわけじゃない。
「はあ……」
矢崎店長は盛大にため息をつく。
「たしかにこだわりが強いお客さんは面倒臭いよ。言いなりになっちまうのもわかるが、結局作れねえんじゃ意味ないだろ」
「はい」
いくらかクールダウンした店長の口調に、ホッとする。
「こっちのお客さんも。とにかく安いものをって言われてたのは俺も聞いてたよ。けど、この強度近視で、4800円セットの標準レンズじゃ、厚いわ端っこは歪んで見えるで、使いにくいぞ」
矢崎店長は、他のお客様のデータカードとフレームを取り出す。
それも私が接客したお客様。たしか、中学生とケチなお母さんだった。
「それは説明しました」
「そうじゃなくて。加算して良いレンズにすれば薄くて軽くなるし、見え方も良くなるってのは説明したのか?」
矢崎店長とのやりとりが、多少めんどくさくなってくる。
説明したって、予算のない人が買ってくれるわけない。
無駄なことは体力と精神力の無駄でしょう?
……もちろん、そうは口にはださないけれども。