キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「社長さんたちの家は、現場のにおいなんかしないだろ」
「するわよっ。父や父のお友達は、現場見学が趣味なのよ。帰って来ると、ひどいにおいがするのよっ」
頻繁に現場を見て回るなんて、いい社長さんたちじゃないか。
と思ったが、口にするのはやめた。
「……なら、自分でもっといい相手を探してくれ。俺は知っての通り、ただの雇われ店長だ。社長令嬢を満足させるような暮らしはさせられない」
遠まわしにもう近づかないでほしいと言っているつもりが、まったく相手には通じていないようだ。
「ただの雇われ店長だなんて、嘘よ。あなたは……」
その言葉で、急激に心が冷えていくのを感じた。
こいつは知っていたんだ。俺がまだ初芽に秘密にしていることを。
「何を調べたか知らないけど、お前が俺に固執するのは、それが目当てだったんだな」
大久保は赤い顔で震え、唇を噛んだ。
あの時と一緒だ。告白を断り、彼女が退社した時と。
「あの子が北京についていけないっていうときは連絡して。必ず力になるから」
「あまり期待しないでくれ」
初芽にふられたとしても、そんなにあっさり他の相手を連れていけるほど、俺は強くない。
それに、こんなに面倒臭い相手、いくらメリットがあると言っても御免だね。
「俺や初芽に構っていないで、お前はお前の幸せを見つけろよ」
しおれている彼女を見ると、最初に考えていた脅迫まがいの忠告をする気にもなれなかった。
財布から1万円札を取り出し、ドレッサーの前に置くと、振り返らずに部屋を出た。