キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
通りかかったお店で買った羊羹を持参し、私たちはエントランスでインターホンを鳴らした。
言い様のない緊張で、胸が高鳴る。っていうか、胃が痛い。
築20年の古いマンションもそうだけど、うちの家族を見て俊はなんて思うだろう……。
部屋の前で、もう一度チャイムを鳴らすと。
「はいはい、今開けますよ……」
家の中からぺたぺたとスリッパの音がして、ぶつぶつ言いながらお母さんがドアを開けた。
「あ……あら?」
お母さんは私に『おかえり』も言わず、隣の俊を見て固まってしまった。
「は、初芽、この方はどなた?」
お母さんの今日のファッション。上は安そうなTシャツに、下はなぜか私の中学の時のジャージ。もちろん、ノーメイク。
なんでよりにもよって!恥ずかしい~!
もうやだ。帰りたい。話したくない。
うつむく沈没寸前の私の横で、明るい声がした。
「初めまして。初芽さんとお付き合いさせていただいている、矢崎と申します」
顔を上げると、俊はいつもの営業用スマイルで、お母さんに微笑みかけている。
目が合った瞬間、お母さんの瞳の真ん中にぽんとハートが産まれる……ような幻覚が見えた気がした。
「あらっ、あらっ、まあ!初芽ったら、彼氏さんを連れてくるなんて一言も言わないんだもの!まあやだ、恥ずかしい」
お母さんはどたどたとたるんだ巨体を揺らしながら、奥の部屋に走っていく。
「初芽!居間に上がってもらって、お茶出してあげてね~!」