キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


「なのにお前は、自分の気持ちより、俺のことを考えてくれた」


俊は意地悪くない、柔らかな笑顔で私を見つめた。


「心配かけて悪い。けど、この通り戻ってきた。もう離さない」


俊の器用な指が、私を引き寄せる。

その胸に飛び込めば、ほのかに煙草の香りがした。

彼の肩越しに見えるのは、涙でにじんだ、ダイヤ型の夜景の光。


「うん。もう離れない。私、近くで俊を支えたい」


もう、『新生活が落ち着くまで』なんて、待っていられない。

せっかく頑張ってきた会社を辞めるのは、少し残念だけど、それより何より、俊の傍にいたい。


「俺は実家に帰るけど、お前も来るか?」

「はい」

「さっきも言ったけど、俺はメガネ部門だけを任せられた三男坊だから……御曹司だっつっても、それほど良い暮らしはさせてやれねえぞ?」


三男坊なんだ。それ、初めて聞いた。

ぷっと吹き出すと、俊は体を離した。


「何がおかしいんだよ」

「だって……私、そんなの気にしてないし。ずっと雇われ店長のままでもいいって思ってましたよ?」

「でも、他のやつらは実家のことを知ると目の色変えるぞ。大久保だって……」


そっか、菜穂さんは俊の実家のこと、お金持ちだってわかってたから、余計に固執したんだ。

俊はきっとそんな経験を、小さな頃から何度もしてきたんだろう。

自分が何もしなくても、周りは媚を売ってくる。

きっと、そんな大人たちや友人たちに、うんざりしてきたんだね……。

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