キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
ちょっと歩けばいいだけなのにそうしないのは、平尾さんがぷんぷんしたオーラを巻き散らかしているからだろうか。
「なあ、ハツ」
突然そう呼ばれて、うつむいていた顔を上げてしまった。
ハツって、私?
私、初芽だけど。なんでそんな何かの内臓みたいな呼び方するの?
「お前、頑張るの嫌いなんだな」
店長の色素の薄い茶色の瞳がこちらを見下ろす。
そのスーツからは、ほのかにタバコのにおいがした。
そうか、さっきの杉田さんとの話、聞こえてたんだ。
「……はい」
素直にうなずいてしまったけど、店長は怒りもせず、嘆きもしない。
「頑張っても、成果がでなかったり、努力が無駄になったりするのが怖くて、頑張れないんだな」
「…………」
「俺は頑張ったやつを否定したりしない。頑張ってミスしたら、そこは俺がフォローするから。お前はとにかく考えすぎる前にやってみて、たくさん失敗してみろ。何度でもやり直せばいいんだから」
矢崎店長の言葉は、なぜかすんなりと胸の中に落ちた。
ああ、そうか……。
私、失敗するのが怖くて、何もできなかったんだ。
何かする前に、色々と自分で理由をつけては、あきらめて納得したフリをしてた。
そうして何もしなければ、失敗して恥ずかしい思いをしなくて済むから。