キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「くっだらねぇ」
ぼそりと、低い声が背後を通過していった。
びくりと肩を震わせると、壁際のキッチンで冷蔵庫を開ける音がした。
おそるおそるそちらを見ると……。
思い切り部屋着の矢崎店長が、ペットボトルから水をラッパ飲みしていた。
「たかが占いで、人生決めてどうするんだよ。ちったあ自分ってものを持て」
楽そうなTシャツにスウェットという出で立ちの矢崎店長の顔には、不精髭。
メガネはいつものシルバーじゃなくて、カジュアルな黒のプラスチック。
店長目当てに来てくれる女性のお客様たちが見たら、さぞかしがっかりすることだろう。
どんなかっこいい人だって、一歩家に帰ればこんなもんなのかも。
しかし、もともとの顔立ちのせいか、そんな姿も不潔に見えないから不思議。
「別に、夢見るくらいいいじゃないですか」
ソファの背もたれに寄りかかり、反論する。
「はいはい。まあ俺だったら、見た目だけ良くても、話してみて頭空っぽだったらがっかりして、次会おうとは思わねえな。そうならないように、新聞くらいは読めよ」
矢崎店長は不機嫌な顔でそう言うと、テーブルの上に放りっぱなしだった昨日の新聞を持つ。
ちなみに今日の新聞は、お客様用に店に置いてある。だから寮にあるのは、いつも一日遅れの新聞だ。
店長は持った新聞でぽんと私の頭を叩くと、ペットボトルを小脇に挟んだまま部屋に戻っていった。
「なによ……」
寝起きで機嫌が悪いからって、休憩中に出てきてからまないでよ。心臓に悪い。