キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「そうよね。前は『遅くなってすみません』なんて、絶対言わなかったのに」
そういえば、さっき杉田さんが休憩に行くとき、そんなことを言っていたような。
普通の事なのに、それさえも以前はなかったってこと?だから杉田さんも、驚いたような顔してたんだ。
「前は触れば切れるみたいな雰囲気だったけど、今はそうでもないもんな」
「でも、厳しいことに変わりはないよ?」
「それは愛情があるからよ!」
怒るのと叱るのは違うっていうしね……って、それじゃ『子育てハッピーアドバイス』じゃないの。
「とにかく、今日の歓迎会楽しみだね」
「歓迎会?」
「はっちゃんの歓迎会だよ!なかなかみんなが集まれる日がなかったけど、今日の閉店後にやろうって、ちゃんと連絡したよ?」
「いつ?」
「はっちゃんが来て、すぐくらい」
すっかり忘れてた……。
だって、来てから一か月くらい経つんだもん。
場所を聞こうと思ったら、店長が集まって話をしているこちらに気づき、鬼の目線で私たちを射抜いた。
私たちはびくっと肩を震わせて解散すると、それぞれの仕事を再開した。
歓迎会かあ……。
ちらと、矢崎店長の接客スマイルを盗み見る。
店長も来るんだよね?
なんだあ……覚えてたら、もう少しカジュアルな服も持ってきて、着替えたのになあ。
なんの変哲もないベージュのアンサンブルに、黒の膝丈スカート。完全に仕事用の服を見て、ため息をついた。
ってなんで、私はため息なんかついてるの?
フルフルと首を横にふり、それ以上余計なことを考えるのはやめた。
それでも閉店まで、間近で見た茶色の瞳がときどき脳裏に閃いては、私の思考を妨げた。