キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「はい?」
平尾さんは乙女のようにもじもじ……というかおそるおそる、上目づかいで店長に話しかける。
「ずっとお聞きしたかったんですが……店長は彼女はいらっしゃらないんですか?」
その質問に、みんなの箸がピタリと止まった。
私も思わず、口に入れかけていたネギ塩タンを、辛口タレの上に落としてしまった。
わあ!せっかくレモンダレで食べようと思っていたのに……って、そうじゃない。
矢崎店長に彼女がいるかもしれない。
そう思うと、急速に食欲が萎えていくのを感じた。
けれど、みんなが息を飲む中、矢崎店長は至極普通の表情で、あっさりとうなずいた。
「いませんよ」
いない……。
そっか、いないんだ。
「ウソだぁ。こんなにイケメンだし、お客さんからもよく連絡先聞かれてるじゃないっすか」
長井君が突っ込む。
「客に手ぇ出すバカがあるかよ」
「じゃあ、菜穂ちゃんはどうして?あの子なら、退職予定だったし、可愛かったのに……」
「平尾さん!」
杉田さんが平尾さんの肩を叩く。
すると平尾さんが、ハッとした顔で口を押えた。
その場がしんと静まり返る。
『菜穂ちゃん』って……誰?
新入りの私だけが知らないみたい。
「……今日はハツの歓迎会ですよ。ハツのことを聞きましょう」
矢崎店長は怒ることも苛立つこともなく、質問をスルーした。