キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


「そ、そうっすよね!はっちゃん、彼氏は?」


いないって知ってるのに、長井君がむりやり話題を私の方に。


「ハツ、あの話しろよ。占い師にどうこうっていう」

「ええ~っ?」

「くだらねえけど、こういう場所での話のネタとしては良いだろ」


そんなあ。散々バカにしたくせに。

しかも私、それを本気で信じて頑張ってるのに。


案の定、例の占いの事を話すと、何も知らなかった杉田さんと長井くんは爆笑した。

そのおかげで場はなごんだけど、私はちっとも面白くなかった。


端っこが焦げて炭になっていきそうなお肉を、次々に口に放り込み、ひたすら咀嚼する。


菜穂って誰よ。退職予定だったって?


ハッと、脳裏にあることがひらめく。

そういえば、私が異動した理由は、『前の女の子が辞めちゃったから』だと、地区長が言っていたような。

もしかして、『菜穂ちゃん』は、私の前にいた女性社員のこと?


確かめたかったけど、ここでわざわざ話題を蒸し返すほど、私も非常識じゃないつもり。


「ハツ、ほれ。ハツが焼けたぞ。共食いしろ」


どうやら『ハツ』とは、牛の心臓のことみたい。

そんなあだな嬉しくないし!ちっとも可愛くないし!


「あ、でもこりこりして美味しい~」

「だろ?」


そうじゃない!

と思いながらも、私は店長がお皿に入れてくれたハツを食べ続けた。

もぐもぐしていると、不意にこちらを見られているような気がして、顔を上げる。けれど、こちらに注目している人は誰もいなかった。

気のせいかな……?


そうして、ときどき微妙な雰囲気になりながらも、私の歓迎会は無事に(?)終了したのであった。


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