キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
杉田さんが、そんな人だったなんて。
長井くんが言うには、異動する先々で、応援に行った店で、彼は女の子にちょっかいを出してきたらしい。
「怖かったんだね。遅くなってごめんね」
長井くんがよしよしと、頭をなでてくれる。
だけど今は、それすらも少し怖かった。
そうは言えなかったけど、助けてくれたので一応ありがとうを言う。
「今日は俺、ここでご飯食べるよ。はっちゃんは外から見える位置で、窓ふきとか掃除とかしてて」
そうか、奥にこもると余計に危険なんだ。
まさか、店長よりもっと警戒しなきゃいけない人物が、同じお店にいたなんて。
できれば今すぐに、矢崎店長に相談してしまいたい。
けれど、私が密告しても、店長は仕事のできる杉田さんの味方をするかもしれない。
私の味方をしてくれたとしても、それで杉田さんの進退に影響があったら、子供さんやご家族が気の毒だし……。
そこで私は気づいた。
きっと他の女の子たちも、気持ち悪い思いをしながらも、彼のご家族のためを思って、なかなか地区長まで相談することができなかったんだろう。
たった一度のことだ。
私が我慢すれば、きっと何もなかったことになる。
すっごく理不尽で腹が立つけれど、その方がお店が円滑に回るなら……。
その日は閉店まで、最低な気分だった。
けれどそのうち、きっと元通りになる。
そう信じて、私は憂鬱な午後を乗り越えた。