キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「来週……もしや、昇進試験ですか?」
「そう。知ってたのか」
あ、やばい。長井くん、怒られるかな。
そう思ったけど、店長は意外に平気な顔で加工の説明をしはじめた。
なんだ……やっぱり、単に私に教える必要はないと思っていただけなんだ。
「聞いてるのか?ほら、こっちが右、こっちが左。間違えるなよ」
私は気を取り直し、メモをとりながら加工機の使い方を教えてもらう。
吸盤を付けたレンズを機械にセットすると、砥石が水を吐き出しながら動き始めた。
「さて、これで削れるまで少し休憩な」
「はい」
「……で、最近何かあったのか?」
「え?」
なんの脈絡もない質問に、一瞬何を聞かれているのかわからなかった。
長井くんと杉田さんは、接客に出ている。
「いつもより、表情が暗いから」
店長は加工台の上を片付けながら、まるで世間話でもするように私に聞いた。
気づいてくれていた?
そう思うと、ホッとして泣きそうになった。
思わず、全部話してしまいそうになる。
けれど……。
「だい……じょうぶ、です」
昇進試験が控えているのに、余計な心配をかけたくない。
「そうか?また平尾さんと喧嘩でもしたのかと思ってたけど」
「違います。ほんとに、大丈夫です……」
「……ま、俺には話したくないこともあるよな」
ウインウインと機械がうなって、レンズが削れる時の独特のにおいが鼻をつく。
話したくないんじゃない。本当は聞いてほしい。