キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


なによ、なによ。


パンプスを脱ぎ捨て、ソファに腰を下ろす。

その途端、我慢していた悔し涙が溢れた。

レンズを割ってしまったのは、たしかに私のミスだ。

だけど、だけど……。


「うぇっ……ひっ、く……」


矢崎店長に呆れられてしまった。

セクハラにあっても、くだらない嫉妬をされても、矢崎店長が味方なら、やっていけると思っていたのに……。


「もうやだ……」


ほら、ね。

頑張ったって、ムダじゃない。

私が頑張ったって、神様はちっとも味方してくれない。

それでも周りは言うだろう。


『そんなことでいちいちへこんで泣いていないで、もっと頑張りなさい』と──。


トントンと、ゆっくり階段を上がってくる音がした。

寮のドアががちゃりと開けられる。

矢崎店長?

期待して顔を上げると、そこに立っていたのは長井くんだった。

手に持っているのは、私が一階に置き去りにしてしまっていたバッグだ。


「……今日は雨でお客さんが少ないから、体調が悪いなら帰ってもいいって、店長が」


私の泣き顔を見て、気まずそうに言う長井くん。

いつも口角の上がっている唇が、今は情けなく下がっていた。


「私はお店にいらないってことね」


私はやけになって立ち上がり、長井くんからバッグをひったくろうとした。


< 65 / 229 >

この作品をシェア

pagetop