キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
……なんて思っても、お客様が少なければ当然、販売のチャンスも少なくなるわけで。
嵐に近くなっていく雨を恨めしくにらむうちに、閉店時間を迎えてしまった。
名誉挽回できなかった。ため息をつくと、目の前のガラスが白く曇った。
「お疲れ様でしたー」
マイカー通勤のセクハラおやじ&おしゃべりババア……もとい、杉田さんと平尾さんはさっさと帰っていく。
ああ嫌だ、心に余裕がないと心の声さえもお下品になっていくわ。
最近は子供の間で妖怪が流行っているなんて言うけれど、自分の周りがリアルに鬼と妖怪だらけになるとは思わなかった。
「全部妖怪のせいだ……」
「なにぶつぶつ言ってんの、はっちゃん」
裏口から出て傘を広げようとした瞬間、後ろから声をかけられた。長井くんだ。
「はっちゃんの家って、最寄駅から徒歩何分?」
「ええと、20分くらいかな」
「そりゃあ大変。送っていってあげようか」
相手は女の子のような顔でにこにこと笑っているけれど、とても素直にうなずく気にはなれなかった。
昼間に告白されてしまったので、二人きりになるのは避けたい。気まずくなるに決まっている。
それに、あんなに親切だった杉田さんが何のきっかけもなしに豹変してしまったんだ。
長井くんはそんな人ではないと思いたいけれど、自己防衛しておくに越したことはない。