キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「ここからだと、往復1時間以上はかかっちゃうから。長井君ちは逆方向だし、悪いよ」
「いや、それくらいなら……」
「やめとけ。明日も出勤だろ」
長井くんがぎょっとした顔で振り返る。
長身の彼の後ろには、いつの間にか矢崎店長が立っていた。
なんだか不機嫌そうな顔をしている。土曜日にしては売り上げが少なかったからかな。
「長井、お前は帰れ。俺がこいつを送っていくから」
「え……でも店長」
「お前、いつも朝礼ぎりぎりに来るだろ。遅くなる前に寝て、明日活躍しろ」
ぐっと言葉を飲み込んだ長井くん。
彼はいつもぎりぎりまで寝ているらしく、たしかに遅刻ぎりぎりのことが多い。
言い返せなくて、長井くんはおとなしく一人で帰っていった。
残されたのは、矢崎店長と私のふたりきり。
「行くぞ」
「で、でも」
往復1時間以上かかってしまうのは、矢崎店長も同じなわけで。
自分に告白してきた菜穂ちゃんにも手を出さなかったくらいだから、この人に限っておかしなことはないと思うけれど。
「いいから乗れ。店長命令だ」
店長は私から傘を奪い、無理やりに背中を押した。
数歩歩けば、店舗の駐車場の片隅に、店長の白いミニクーパーが見えてくる。
ああああ、相合傘だし!何気に、車内狭いし!
戸惑うばかりだけど、助手席のドアを店長に開けられれば、もう拒否することは不可能。
覚悟を決めて乗り込むと、車内はタバコのにおいを消す芳香剤のにおいで充満していた。