サイレント
樹里の年上のくせにこうやって余裕のない所が面白かったし、救われている部分でもあった。

これですごく余裕ぶって子供扱いされた日には一緒になんていられやしない。

一は刻一刻と過ぎていく時計を見ながら終電の時間を意識しつつ、このまま樹里が酔い潰れてくれることを期待した。

今日は家に帰りたくない。

デニムに入れたままの離婚届のことなど考えたくないし、父からもらった金は使い切ってしまいたかった。

一晩くらい弟だってどうにかなるだろ。

そんな風にダラダラと過ごしているうちに樹里はとうとう横になった。

無地のシンプルなワンピース姿の樹里が眠そうに目を擦る。

一はベッドの上のゴミを片付けるとそんな樹里の隣に寝そべった。

肩肘をついて樹里を見下ろす。

クラスの女子とは違って綺麗に化粧された顔が間近にある。

長いまつげが顔に影を落としていた。

「先生、このまま今日は泊まってく?」

帰る気なんかないくせに一はわざと聞いた。
眠たそうだった樹里の目が急にぱっちりと開かれ一を見上げる。

その瞳は「聞かないで」と語っているようだった。
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